対談

2010.08.17

松久保 伽秀さん法相宗 大本山 薬師寺執事

第3回 平城遷都1300年祭に寄せて

潮田
今年、奈良は、平城遷都1300年祭で、多くの人々が奈良を訪れると思いますが、何かメッセージはありますか。
松久保
平城宮跡会場に行けば、パビリオンはありますが、薬師寺は1300年前から私たちのためにずっと建っていてくれました。その意味では、ここもパビリオンのひとつです。
また、今秋から東塔の復元修理が始まりますが、完成は8年後です。1300年の時間の中で、全面的な復元修理は今回で2回目です。前回は1800年代でした。そのゆったりとした時間の流れを是非、感じていただきたいですね。
潮田
日頃、私たちは、あわただしい時間の中で、せかせかと生き急いでいますが、確かにこちらに寄せていただくと、おおらかな気持ちになれます。
東塔の完成が8年後と聞くと、今、話題のスカイツリーは完成まで4年くらいですから、長いなあ、と思いますね。
松久保 
東塔の修理委員会で、70代、80代のお歴々が「東塔が完成する頃には、たぶん私はいないと思いますが、よろしく」と挨拶されるんですよ。
潮田
なんか、そのゆるい感じが、なんともいいですね。
松久保 
平城宮会場には、遣唐使船が復元展示されています。遣唐使は20回、唐へ渡っていますが、船の上の板に人が乗って漕いで荒海を渡っていきました。
当時の人々は、自分のためではなく、次の時代の人々のためを思っていたのでしょう。そうでなければ、大きな危険を背負って、唐へ渡り続けることは不可能だったでしょう。この平城遷都1300年祭は、昔の人々の純粋な心意気に触れるきっかけとなれば、と思っています。
そして、私たちの命は、これまでひとつも途切れることなく脈々と受け継がれてきたこと、私が今、ここに存在していること、さらに自分も次の世代へその命のバトンを渡す使命があることに思いを馳せていただけたら、と願っています。
潮田
この平城遷都1300年祭で、薬師寺にも多くの人々が訪れると思います。薬師寺は世界遺産で、お葬式をするお寺ではなく、国のお寺ですので、ちょっと敷居が高いと思われる方もいるかもしれません。それでも、ちょっと薬師寺のお坊さんとお話してみたいな、と思われる方がいらっしゃったら、それは受けていただけるのでしょうか。
松久保
奈良のお寺は、日本人の精神環境を整える、という使命があります。ですので、どうぞお気軽に声をかけていただきたいと思います。時間が許す限り、お話をさせていただきたいと思います。
潮田
今の松久保さんの言葉を聞くと、かつて、お父様の後を継ぐかどうか悩まれていた頃、ご自分に向かって手を合わせる方々の存在が負担になっておられましたが、今は、確かに、その方々の心への「拝み返し」ができておられるのですね。成長された、ということでしょうか。
松久保
この30年で、私も生かされ、成長させていただきました。
潮田
本日は、ありがとうございました。
松久保
こちらこそ、ありがとうございました。

文・構成 潮田圭子